• 芸術文化日録(AtoCジャーナル)

『知られざる小林多喜二の周辺』

2025年04月29日

 作家小林多喜二のルーツを探った『知られざる小林多喜二の周辺』(幻冬舎メディアコンサルティング)が刊行された。著者は札幌の医師小林信義。苫小牧の「三星」製菓を創業した慶義が多喜二の伯父に当たり、信義の曽祖父に当たる。事業に失敗して秋田から小樽へ流れてきた慶義が、つまづきながらもパン店を成功させ、甥の多喜二の学業を支援した話は、三星のHPに詳しい。著作では、母セキの話などから旧暦8月23日、新暦10月13日生まれとされていた多喜二の誕生日はセキの思い違いで、本当は12月1日生まれであったことを、苫小牧の実家にあった除籍謄本から断定した。多喜二には、弟の音楽家の三吾との間に末治という兄弟がいたことも判明した。
 流氷や北海道空襲の記録で知られる文筆家の菊地慶一が1月15日に92歳で亡くなり、師弟のような関係にあった地方史研究家の山本竜也が追悼文を寄せた。生前にユーモアたっぷりの死亡記事を自ら用意していたことなど、一面を知ることができた。
 北大大学院文学研究員の今村信隆准教授が『「お静かに!」の文化史』(文学通信)を刊行した。美術館では静粛を求められてきた背景を探った。
 伊藤氏貴の《文芸時評》は、小さな存在に光を当て、事実を語る声を積み重ねることで歴史の意味を浮かび上がらせる創作について。おそらく偶然ながら、多喜二に関する著作や、菊地慶一の歴史との向き合い方とも響き合う原稿になっている。
 いずれも道新カルチャー面より。

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