• 芸術文化日録(AtoCジャーナル)

公共劇場の芸術監督

2023年08月31日

 朝日新聞文化面。公共劇場の芸術監督のあり方を深く考えさせる良い記事。東京都杉並区立の「座・高円寺」芸術監督にシライケイタが就任した。公募・審査を経て74人の候補者から選ばれた。同館の初代監督で、世田谷パブリックシアターの初代劇場監督を務めた劇作家・演出家の佐藤信は、〈アーティストにとって芸術監督は、選ばれ方だけでなく仕事や評価方法もブラックボックスになっている〉と話す。90年代以降、世田谷やBunkamuraシアターコクーンなど「創造型劇場」が主流となった。しかし、芸術監督の権限や役割はあいまいなまま。〈税金で運営される効率劇場で、説得力のある制度作りに取り組んでこなかった〉と佐藤は演劇界の責任にも触れる。
 一方、串田和美が初代の芸術監督を20年間務めたまつもと市民芸術館。退任に当たって、実績を検証する専門家会議を開き、国内外への発信や地域コミュニティを巻き込んだ串田の活動を評価した。これを踏まえて、今後は「芸術監督団」として運営に関わる人材を選んだ。館を運営する財団理事長の〈芸術監督を『制度』化することで、より多様な人を受け入れられるはず〉と言う。うなずける。記事は学習院女子大教授が語る「公共劇場のビジョンの必要性」という言葉で結んでいる。 
 ひるがえって、芸術監督と呼ばれるポジションをあえて置かずに運営してきた札幌のKitaraとhitaru。札幌市は芸術監督という「制度」の功罪をどう検証し、結果として「置かない」判断を下したのか。聞いてみたい。
 芸術監督や劇場監督の問題と通底する話題。道立近代美術館の館長も務めた水上武夫が死去。民間から館長を迎えたのは、後にも先にも一人だけのはず。賛否両論があったかもしれないが、記憶に残る人物であった。民間館長がいた歴史は、館長選びの基準に官民の壁はないことを証明した。であれば今こそ、その功罪を含めて「館長」という制度の意味を考える意義はあるように思う。
 朝日新聞の北海道面では、留萌市が街ぐるみで誘致している吹奏楽部の「音楽合宿」の取り組みを紹介。合宿に使う場合は、練習場の会場費を無料にする代わり、楽器運搬などは市内の業者を使うと。生徒たちの面倒は「留萌吹奏楽部後援会」が担うため、教員の負担も軽減できる。地元の僧侶で、音楽指導経験もある谷龍嗣が発案者という。三方よしの取り組みではないか。

stt